デザイン・写真編集・ペイントソフトとして世界中で愛用されている「Affinity」シリーズ。サブスクリプション不要の買い切りモデル(または柔軟なライセンス)として高い評価を得てきましたが、最新の大型アップデートにより、その実力がさらに高まりました。
今回のアップデートでは、長年ユーザーから要望の多かった「ブレンドツール」や「JavaScriptスクリプトによる作業自動化」、さらには「Canva AI技術との融合」など、プロの現場でも即戦力となる機能が多数搭載されています。
「Adobe CCからの移行を検討している」
「最近のAffinityで何ができるようになったのか全体像を知りたい」
そんな方に向けて、本記事ではAffinityの最新注目機能を分野別に分かりやすく整理して解説します。制作効率を劇的に上げる新機能をぜひチェックしてみてください!
【全体・共通】制作フローを大きく変える3つの目玉機能
待望のグラデーション・形状補間「ブレンドツール」
Adobe Illustratorなどのグラフィックソフトでは定番でありながら、これまでAffinityユーザーが最も強く切望していた機能のひとつが、この「ブレンドツール」です。
最新版では、単にオブジェクトとオブジェクトの間を直線的に保管するだけでなく、完全なライブ(非破壊)編集に対応した形で実装されました。2つ以上のオブジェクト(パスやシェイプ)を選択してブレンドを適用すると、その間の形状やカラー、不透明度、線の太さがスムーズに段階変化します。
さらに、ブレンドの軸となるパス(パススプライン)の形状をペンツールで後から自由に変更したり、ステップ数(中間オブジェクトの個数)をリアルタイムでスライダー調整したりすることが可能です。これにより、以下のようなグラフィック表現が格段に短時間で作成できるようになります。
- 立体感のある3D風のテクスチャやタイポグラフィ
- 幾何学的で精密な波形グラフィックやコンター(等高線)パターン
- 複雑なカラーグラデーションの階調表現
従来のように手動で複数オブジェクトを複製・変形・配色する手間が一切なくなり、デザインの試行錯誤が圧倒的にスピーディになります。
作業を自動化する「スクリプト機能(Scripting Studio)」
これまでAffinityシリーズは「動作が軽快」な反面、大量処理や高度な自動化という点ではAdobe製品(ExtendScript / Action)に一歩譲る部分がありました。しかし、新しい「Scripting Studio」の登場により、その評価は大きく覆ることになります。
業界標準であるJavaScript環境が統合され、キャンバス上のオブジェクト操作、レイヤーの再配置、カラーの一括変更、各種フォーマットへの書き出しなどをコードで制御できるようになりました。
さらに、昨今の生成AI(ChatGPTやClaudeなど)との親和性が抜群に高い点も見逃せません。プログラミングの知識が浅いデザイナーであっても、AIに対して「選択中の全レイヤーにドロップシノドウを適用して、個別にPNG出力するコードを書いて」と指示し、出力されたコードをScripting Studioに貼り付けるだけで自動化プログラムが完成します。
作成したスクリプトはパネル上に保存してワンクリックで呼び出せるため、以下のような定型業務を自動化できます。
- バナーやSNS画像のマルチサイズ展開・一括書き出し
- 特定ルールに基づいたレイヤー命名やカラー置換
- 数百枚の写真素材に対する定型レタッチ処理の適用
デザイン制作における「単純作業の繰り返し」を排除し、クリエイターが本質的なクリエイティブ作業に集中できる環境を整えてくれます。
ワークフローを統合する新しい「Studio」UI
Affinityシリーズの大きな特徴であった「ペルソナ(Personas)」機能がさらに強化され、直感的なインターフェース「Studio」へと再設計されました。
これまでは「デザイン(Vector)」「写真編集(Pixel)」「書き出し(Export)」などのモードを切り替える構成でしたが、新しいStudio UIでは、ベクターデザイン・ピクセル描画・DTPレイアウト・Canva AIといった異なった制作環境を、よりシームレスかつ透過的に往来できるようになりました。
ツールバーやパネルの配置が作業コンテキストに合わせて自動で最適化されるため、「ベクターパスを調整しながら、同時に高度なピクセルマスクを適用し、最終的なページレイアウトに反映させる」といったマルチタスクな作業でも迷いが生じません。
また、操作感の統一性が高まったことで、初めてAffinityに触れるユーザーでも学習コストを抑えて短期間でマスターできるよう配慮されています。
ワークフローを統合する新しい「Studio」UI
フリーハンドで描いて結合「ベクターブロブブラシ&消しゴム」
イラストレーターや手書きグラフィックを多用するクリエイターにとって、ベクターブロブブラシ(Vector Blob Brush)は制作体験を劇的に変えるツールです。
ペンタブレットやiPadの液晶タブレットでの筆圧・傾き感知に完全対応しており、フリーハンドで線を引くだけで、重なるストロークがリアルタイムで単一の塗りつぶしベクターシェイプへと自動結合されます。従来の「線を描いてからブーリアン演算(加算)で結合する」という面倒なステップを踏む必要がありません。
ペアとなる「ベクター消しゴムツール」を使えば、描いたベクター領域をまるでビットマップ画像のように直感的に削り取ることができ、削った後の境界線もきれいなベクターパスとして保持されます。
アニメーションの原画作成、ストリートアート風のグラフィック、手描き文字(レタリング)の作成において、ベクター特有の解像度無制限な強みを活かしつつ、アナログ感覚の自由な表現が可能になります。
ラスター画像をすばやくベクター化「画像トレース」
手描きのアナログスケッチやロゴ画像、低解像度のドット絵などをワンクリックで編集可能なベクターデータへと変換する「画像トレース(Image Trace)」機能が搭載されました。
高精度なベクター変換エンジンを搭載しており、カラー・グレースケール・モノクロ(2階調)の変換に対応。変換時には、輪郭の滑らかさ(曲線フィット)、最小ノイズの除去、カラー数の上限などをリアルタイムプレビューを見ながら細かく調整可能です。
例えば、紙のノートに描いたアイデアスケッチをスマホで撮影し、Affinity Designerに取り込んで画像トレースを実行すれば、数秒で拡大・縮小しても劣化しないベクターアートワークへと変換できます。ロゴのリサイズ対応や、アナロググラフィックのデジタル化作業にかかる時間を大幅に削減します。
リアルな質感表現「メッシュグラデーション・ハッチ Fill」
高度なイラストレーションやグラフィックデザインに不可欠な「複雑な陰影表現」と「精密なパターン描写」をカバーする新機能です。
メッシュグラデーションでは、オブジェクト内部にグリッド上のノードを配置し、各ノードに個別のカラーや不透明度を割り振ることで、有機的で滑らかなカラーグラデーションを作り出せます。光の当たり具合による複雑なグラデーションや、製品デザインの金属感・流体のようなテクスチャ表現が自由自在になります。
ハッチ Fillは、平行線や斜線、交差線を一定のルールで敷き詰めるパターンフィル機能です。建築図面やCADデータからインポートした線画に対してハッチングパターンを適用したり、漫画風の網掛け・コミック調のカゲ表現をベクターデータのまま軽量かつ正確に配置できます。
【写真編集・レタッチ】Affinity Photoの強化点
非破壊RAW編集とCapture One連携の進化
Affinity Photoの強みである非破壊編集ロジックがRAW現像プロセスの深部まで拡張されました。
RAWファイルを読み込んだ後、一度現像を行ってレタッチ作業に入った後でも、RAW現像パラメータ(露出、色温度、ハイライト/シェード復元など)をいつでも再調整できます。画像データが損なわれることがないため、クライアントからの修正指示にも柔軟に対応可能です。
さらに、多くのプロフォトグラファーが愛用するテザー撮影・画像管理ソフト「Capture One」との相互連携(ラウンドトリップ)が大幅に強化されました。Capture OneのライブラリからAffinity Photoへ直接データを渡し、高度なレイヤー合成やレタッチを行った結果を、レイヤー情報やマスクを保持したままCapture One側へシームレスに書き戻せます。スタジオ撮影から仕上げまでのフォトグラファーのワークフローを止めることがありません。
ハローを出さずに質感を立たせる「マルチバンドシャープ」&各種フィルター
写真編集における長年の課題であった「シャープ処理による境界線の白フチ(ハロー現象)」を克服する、革新的なフィルター群が追加されました。
マルチバンドシャープ(Multi-Band Sharpen)は、画像を複数の周波数帯域(低周波・中周波・高周波)に分解し、ディテール(細部)のみを選択的に強調します。人物の肌の質感を維持しながら瞳や髪の毛だけをシャープにしたり、建造物の複雑なテクスチャを白フチを生じさせずに際立たせることができます。
さらに、表現の幅を広げる特殊フィルターも充実しています。
テクスチャフィルター / トーンストレッチ
表面の凹凸感を際立たせたり、天体写真などで微小な明暗差を強調するトーン伸長調整。
グリッチフィルター
非破壊で適用できる20種類以上のデジタルノイズ・色相ズレ(RGBずらし)エフェクト。
リアルタイム・ブルーム
ネオンや強い光源の周囲に自然な光のあふれ出し(発光効果)をリアルタイム描画。
オブジェクト・輝度・色相に対応した高精度マスク
レタッチの精度と速度を左右する「切り抜き・選択範囲作成」機能が大幅にアップデートされました。
新しく追加された選択・マスクエンジンでは、画像内の対象物(人物、車、商品など)を自動認識して瞬時にバウンディングボックス化する「オブジェクト選択」に加え、以下の高度なライブマスクが利用可能です。
輝度範囲マスク(Luminosity Mask)
ハイライト・中間調・シャドウの明るさレベルを指定して、露出調整をピンポイントで適用。
色相範囲マスク(Hue Range Mask)
特定のカラー範囲(例:特定の服の色や空の青さ)だけを直感的に抽出・色相補正。
複合マスク(Compound Mask)
複数のマスクを「加算」「減算」「交差」などのブーリアン演算で結合し、複雑な被写体の選択範囲を作成。
髪の毛や複雑な樹木の背景分離など、従来は手作業でパスを叩いたりチャンネル操作が必要だった難易度の高い作業が、わずか数クリックで完結します。
【DTP・レイアウト】Affinity Publisherの新機能
InDesign(.indd)互換性の向上
Adobe InDesignからAffinity Publisherへの移行を阻む最大のエラー要因であった「ファイル互換性」が劇的に改善されました。
これまでのIDML形式経由の読み込みに加え、InDesignのネイティブフォーマットである.inddファイルの解析・変換精度が格段にアップ。マスターページ(親ページ)の構造、テキストフレームの連結関係、段落スタイル・文字スタイル、さらには複雑な表組み(テーブル)まで、レイアウトを崩さずに正確に保持してインポートできます。
過去にInDesignで作成した膨大なデザイン資産やテンプレートを無駄にすることなく、スムーズにAffinity環境へ移行・再利用することが可能です。
Word文書のライブリンク読み込みで原稿変更に対応
書籍、パンフレット、社報などの長文ページ物制作において、制作進行を劇的に効率化する機能が「外部テキスト文書のライブリンク」です。
画像ファイルを配置するように、Microsoft Word(.docx)やRTF・テキストファイルをレイアウト上に「リンク配置」できます。ライターや編集者が原稿ファイル側(Word等)を修正・追記した場合、Affinity Publisher上で通知が表示され、ワンクリックでレイアウト上の文章も最新状態に自動更新されます。
デザインレイアウトと原稿執筆が並行して進む現場において、「修正原稿のコピペ漏れ」や「先祖返り」といった人間的ミスを防止し、編集者とデザイナー間の無駄なやり取りを解消します。
アイコン・SVGを割り当てる「画像箇条書き」
カタログ、マニュアル、会社案内などの紙面作成でよく使われる箇条書き(ビュレットリスト)の表現力が大きく向上しました。
従来のドット(・)や数字だけでなく、任意の画像ファイル(PNG/JPEG)やベクターアイコン(SVG)をリストの頭記号として登録・適用できます。SVGアイコンを使用すれば、テキストのサイズやカラーの変更に連動してアイコンのスケールや色が自動で追従します。
箇条書きのインデント幅や文字とのスペースもスタイルとして一括管理できるため、ブランドイメージに合わせたオリジナルアイコン付きリストを、紙面全体で統一感を持ってスピーディに展開できます。
【AI・アセット連携】Canvaテクノロジーとの融合
Generative Fill / Expand(生成塗りつぶし・拡張)の活用
Canvaファミリーへの参入により、Canvaが誇る強力な生成AIテクノロジーがAffinityのネイティブ機能として組み込まれました。
Generative Fill(生成塗りつぶし)
画像内の不要なオブジェクトを囲んで指示を出すだけで、周囲の文脈に合わせた自然な背景で消去・置換。
Generative Expand(生成拡張)
キャンバスサイズを広げた際、不足している背景部分をAIが周りの風景から推測して自然に描き足し。
超解像(Super-resolution)
低解像度の写真素材を、ディテールを崩さずに高精細化。
これらの処理はすべて非破壊レイヤーやスマートオブジェクトとして生成されるため、生成後に気に入らなければ元の画像にいつでも戻せます。「手作業でスタンプツールを使って背景を消す」といった時間を要するレタッチ作業が不要になります。
チーム制作を円滑にするブランドキット統合
企業のデザインガイドラインやブランドアセットを一元管理する「ブランドキット(Brand Kit)」機能が、Affinityの各アプリから直接参照可能になりました。
Canvaやクラウド上で共有されているロゴデータ、指定フォント、カラーパレット、指定グラフィック素材が、Affinityの「アセットパネル」内にリアルタイムで同期されます。
デザイナーは素材を探してローカルフォルダを検索する必要がなくなり、常に最新のブランドルールに則った制作が行えます。大規模プロジェクトやクライアントワークにおいて、表記表記ゆれや指定色の間違いといったミスを防ぎ、ブランディングの品質をチーム全体で一定に保つことができます。
まとめ:最新版Affinityで広がる制作の可能性
待望のブレンドツールやJavaScript・生成AIを活用できるスクリプト機能をはじめ、ベクターブロブブラシや画像トレース、Capture One連携、InDesignネイティブ互換、そしてCanvaのAI技術やブランドキット統合といった先進機能を網羅したことで、単なるコスト削減にとどまらず、個人制作からチーム制作まで幅広い現場の生産性を劇的に向上させる環境が整いました。





